日記

東京に越してきてから1年が過ぎました。そしてそれは、2年程暮らした京都を離れてから1年が経ったということを同時に表します。更に言えば、おばあちゃんが亡くなってしまってから3年経ったということにもなります。 おばあちゃんが死んでしまったのは、僕が…

日記

十月の寒さに言葉を尽くすのは難しい。冬が来れば十月に震えたことなどすぐ忘れてしまうだろう。しかし今の僕は咄嗟の寒さに晒されてあたたかい服がどうにも欲しいと思っている。悪夢を見ても死んでしまった人を思い出してもあたたかい服さえあれば安心して…

日記

短歌五首 偉大なる毛足の長き犬歩く 向こう岸から微笑みかけて 夜光る 街に馴染まぬ咆哮と 百日紅告ぐ 九月の組成 カーテンを透かす光で思い出す あなたの澄んだ魂の色 デパ地下のケーキコーナー眩しくて 眠れるように花買い帰る 眠り醒め オペラのような足…

日記

人々が寝静まった後になってようやく分かることがある。人は孤独でも幸福になることが出来る。昼の陽射しや喧騒の中では気付けない。勿論、昼日中にしか理解出来ないこともある。しかし、風の柔らかさとか月の輝きに支えられた真実というものが確かに存在す…

日記

眠る。哀悼と七月。 埃にまみれた鏡は宙に浮いて、我々の理解を要さない。鳥たちは見えない魚の銀の腹を狙って世界の総体を捉えようとする。世界の断片は宇宙単位で光り続けているものの誰の目にも止まらない。だがそれは不幸せとは離れたところにある。ただ…

日記

太陽に炙られた街が夜を通して大気中に熱を返す。朝を迎える準備は時間の逆行にも似ている。深い夜更けに眠れない人々は孤独を知っている。或いは、知らざるを得ない。夜にしか見えないものがあるとしたら、それは孤独な魂の形かもしれない。 旅先ですれ違う…

イルカと茄子

さっきまで眠気の尾をしっかり握っていたのにイルカと茄子の祖先のことを考えていたらいつの間にか手からすり抜けてしまった。 こうなったらまた眠気が訪れるまで何も考えずに待つのが一番良いのだけど時に諦めも肝要で、寝ることを諦めればこうして意味のな…

蜜柑

全宇宙の悲しみが或るひとつの蜜柑に詰まっているというのはよく知られた話である。薄い皮の下に身を寄せ合う小さな房のそれぞれにはこのような名前がついていることだろう。寂寞、陰鬱、哀惜、憐憫...。さあ早くその滴る悲哀を手に取って飲み下してはくださ…

夜の神話

電気を消して寝床に潜り込む。目を閉じて、今日あった出来事とか、明日の朝食のこととか、生きることへの不安とか、その他雑多な物事を色んな射程でとらえる。生きているだけで数え切れないほどの些事に押し流されそうになる。もう少し生きやすかったら良か…

祈る眼差し

「愛する人に死なれたら、毎晩その人を思い出すためにジャスミンの種を蒔く」ガルシア・マルケス「落葉」より 冷気に撫でられて目を覚ますと、車窓から白い光が差し込んでいた。身を起こして外を眺めると、見渡す限り花畑が拡がっているのが見えた。花畑には…

旅に出る理由は

旅に持っていった数冊の本の中の一つにカート・ヴォネガットの「母なる夜」があった。この本の冒頭に「愛する人とできるだけいっしょに寝てあげなさい。それはみなさんにとって、ほんとうに好ましいことですから。」と作者から読者へと語り掛ける言葉がある…

獣たちの夜

バラナシにはヒンドゥー教の聖地、ガンジス河がある。河は幅が広く弓なりに反っていて、にび色の水をたたえてゆっくりと流れる。岸辺には無数の小船が並び、対岸へと信者、通勤通学する人、観光客たちをひっきりなしに運んでいく。ある時、ふと河の深さが気…

街の灯り

‪太陽が沈む夕暮れ時、澄んだ青と橙色が混じり合い、刻一刻と色を変える空の下で遠くに見える街に小さな灯りがつき始める。灯りは徐々に増え、空が濃紺の闇に包まれる頃合いになると、星を地面にそのまま散りばめたような光の群れになる。そして、ふたたび太…

恐竜のこと

自分のブログに恐竜公園という名前をつけた。なんでこんな名前をつけたのだろう。変な名前だな。 恐竜は好きだ。なんで好きなのか理由はたくさんあるけど、一つだけあげるとしたら、恐竜に対してどうしたって哀憐の情を強く感じてしまうということがあると思…