夜の神話

電気を消して寝床に潜り込む。目を閉じて、今日あった出来事とか、明日の朝食のこととか、生きることへの不安とか、その他雑多な物事を色んな射程でとらえる。生きているだけで数え切れないほどの些事に押し流されそうになる。もう少し生きやすかったら良かったのにと思うけど、そうではないのでひとりでなんとか生きるしかない。

寝ている人間は植物のようだなと思う。静かに寝息を立てて朝陽を待っている。人の寝顔を観察していると無垢で美しい白い花が咲くのではないかと思って、なんだかいてもたっても居られないような気持ちになる。そして、自分が他人にしてやれることがいかに少ないかを知る。

夜の美しさには孤独の力学がはたらいている。いつか地球を遠くから眺めて「あぁ、なんて美しい星に住んでいたのだろう」と思うときが来るかもしれない。それは僕の眼差しかもしれないし、そうではないかもしれない。そこに大きな違いはない。一生帰れない場所や二度と会えない人を思う深い沈黙に、夜は満たされている。